(2.6) 高階偏導関数とテーラーの定理

$f_{xy}$ は $f$ を最初は $x$ で微分し次に $y$ で微分した ものである。 $f_{yx}$ は $f$ を最初は $y$ で微分し次に $x$ で微分した ものであり, この2つは一般に違うものである。 しかしある条件の元では一致する。

定理 2.23[シュワルツの定理] 点 $(a,b)$ の近傍で,$f_x,f_y,f_{xy}$ が存在して, $f_{xy}$ が $(a,b)$ で連続ならば, $f_{yx}$ も存在して $f_{xy}(a,b)=f_{yx}(a,b)$ が成立する。

演習問題[*] 2.26
定理 2.23 を証明せよ。

定義 2.24 関数 $f(x,y)$ に対し $f_x$ および $f_y$ が存在して共に連続であるとき関数 $f(x,y)$ は $C^1$級 であるという。 定理 2.11 より$C^1$級であれば全微分可能である。 すべての2階までの偏導関数が存在して連 続のとき関数 $f(x,y)$ は$C^2$級であるという。 $f$が $C^2$ 級のとき 定理 2.23 より $f_{xy}=f_{yx}$ が成立する。
関数 $f(x,y)$ の$n$階までの導関数がすべて存在して 連続であれば$C^n$級であるという。 関数 $f(x,y)$ が $C^n$級 であれば, $n$ 階までの導関数は $x,y$ で微分した回数が同じであれば その順序によらず決る($\to$演習問題 2.27)。

演習問題 2.27
定理 2.23 を仮定して次を示せ。
  1. $z=f(x,y)$ が $C^3$級 ならば $$z_{xxy}=z_{xyx}=z_{yxx},\quad z_{yyx}=z_{yxy}=z_{xyy}$$ が成立する。
  2. $[*]$ $z=f(x,y)$ が $C^n$ 級であるとする。 $\alpha$ を $x$ または $y$ が $k$個 ($0\leqq k\leqq n-2$) 並んだもの,$\beta$ を $x$ または $y$ が $n-k-2$ 個並んだものとすると $$z_{\alpha xy\beta}=z_{\alpha yx\beta}$$ が成立する。例えば $\alpha=xy,\beta=yy$ のときは $z_{xyxyyy}=z_{xyyxyy}$ を意味する。
  3. $[*]$ $z=f(x,y)$ が $C^n$ 級 ならば $n$ 階の導関数は $x,y$ で微分した回数が同じであればその順序によらず決る。

以下この節では関数は何回でも微分できることを仮定し, それを特に断らないことにする。

多変数のテーラーの定理を述べるために次の記号を導入する。 この記号を使用しないと,定理を書き下すだけで結構な手間である。

定義 2.25 $\dfrac{\bd}{\bd x}$を独立したものとして扱い$\dfrac{\bd}{\bd x}f$は $\dfrac{\bd}{\bd x}$ が $f$ に作用していると見なす。 このとき形式的に $D=h\dfrac{\bd}{\bd x}+k\dfrac{\bd}{\bd y}$と定義し, $Df$を $$Df=h\dfrac{\bd}{\bd x}f+k\dfrac{\bd}{\bd y}f$$ と定義する。 また $$D^2= \left(h\dfrac{\bd}{\bd x}+k\dfrac{\bd}{\bd y}\right)^2 =h^2\dfrac{\bd^2}{x^2}+2hk\dfrac{\bd^2}{\bd x\bd y}+k^2\dfrac{\bd^2}{\bd y^2}$$ なので $$D^2f= \left(h\dfrac{\bd}{\bd x}+k\dfrac{\bd}{\bd y}\right)^2f =h^2\dfrac{\bd^2}{\bd x^2}f+2hk\dfrac{\bd^2}{\bd x\bd y}f +k^2\dfrac{\bd^2}{\bd y^2}f$$ と考える。 一般に $D^n=\left( h\dfrac{\partial }{\partial x}+ k\dfrac{\partial }{\partial y}\right)^n ={\ds \sum_{r=0}^n{}_nC_rh^{n-r}k^r% \frac{\partial^n}{\partial x^{n-r}\partial y^r}}$ なので $$D^nf=\left( h\dfrac{\partial }{\partial x}+ k\dfrac{\partial }{\partial y}\right)^nf ={\ds \sum_{r=0}^n{}_nC_rh^{n-r}k^r% \frac{\partial^n}{\partial x^{n-r}\partial y^r}}f$$ と考える。

定理 2.26[テーラーの定理] $(a,b)$ と $(a+h,b+k)$ を結ぶ線分は定義域に含まれているとする。 \begin{align*} f(a+h,b+k) =&\sum_{j=0}^{n-1}\frac1{j!}D^jf(a,b)+\frac{1}{n!}D^nf(a+\theta h,b+\theta k)\\ =&f(a,b)+Df(a,b)+\cdots+\dfrac{1}{j!}D^jf(a,b)+ \cdots\\ &\phantom{\MSP{2}} +\dfrac{1}{(n-1)!}D^{n-1}f(a,b)+\dfrac{1}{n!}D^nf(a+\theta h,b+\theta k) \end{align*} となる $\theta\hs (0\lt\theta\lt1$) が存在する。
1変数の定理の場合と同様に, 定理の $\dfrac{1}{n!}D^nf(a+\theta h,b+\theta k)$ の項を剰余項といい $R_n$ で表す。

演習問題 2.28
$F(t)=f(a+ht,b+kt)$ とおき, $F(t)$ に1変数のテーラーの定理を適用することにより 定理 2.26 を証明せよ。

定理 2.26 は $D$ という記号を用いて記述しているので, 1変数の定理と同じ様に見えるが,書き下してみると1変数よりも複雑である。 $n=3$ のときに定理を $D$ という記号を用いずに書く。 \begin{align*} D^0f&=f& &Df=hf_x+kf_y\\ D^2f&=h^2f_{xx}+2hkf_{xy}+k^2f_{yy}& &D^3f=h^3f_{xxx}+3h^2kf_{xxy}+3hk^2f_{xyy}+k^3f_{yyy} \end{align*} なので \begin{align*} f(a+h,b+k)=&f(a,b)+hf_x(a,b)+kf_y(a,b)\\ &+{\frac12\Big(}h^2f_{xx}(a,b)+2hkf_{xy}(a,b)+k^2f_{yy}(a,b){\Big)}\\ &+{\frac16\Big(}h^3f_{xxx}(a+\theta h,b+\theta k)+3h^2kf_{xxy}(a+\theta h,b+\theta k)\\ &+3hk^2f_{xyy}(a+\theta h,b+\theta k) +k^3f_{yyy}(a+\theta h,b+\theta k){\Big)} \end{align*} となる。

演習問題 2.29
$n=4$のとき定理 2.26 を $D$ を用いないで記述せよ。また $n=5$ のときも記述せよ。

ここでは剰余項を無視した近似を考える。
関数は $z=f(x,y)=x^2e^y$ で 点は $(a,b)=(1,1)$ とする。 最初に $n=2$ の場合を考える。 $f_x=2xe^y$, $f_y=x^2e^y$ なので $f(1,1)=e$, $f_x(1,1)=2e$, $f_y{(1,1)}=e$ である。よって $$f(1+h,1+k)\fallingdotseq e+2eh+ek$$ である。 これは関数 $f$ を $(x,y)=(1,1)$ で$h,k$ に関する1次式で近似している式である(今の場合は接平面の方程式)。 1変数のときと同じように「近似する$1$次式」を定義する。
$x=a+h,y=b+k$ とする。 $$\epsilon(h,k)=\frac{f(a+h,b+k)-(A+Bh+Ck)}{\sqrt{h^2+k^2}}$$ とおく。 $\ds\lim_{(h,k)\to(0,0)}\epsilon(h,k)=0$ が成立するとき,$A+Bh+Ck$は$(x,y)=(a,b)$ で $f(x,y)=f(a+h,b+k)$ を近似する1次式と呼ぶ。
この例でいうと $e+2eh+ek$は$(x,y)=(1,1)$ で $f(x,y)=x^2e^y$ を近似する1次式であるc(証明は演習問題 2.31)。
全微分可能性の定義と見比べてみれば, $(x,y)=(a,b)$ で $z=f(x,y)$ を近似する1次式とは $z=f(x,y)$ の $(x,y)=(a,b)$ での接平面であることが分かる。

$n=3$ の場合は $$f(1+h,1+k)\fallingdotseq e+2eh+ek+eh^2+2ehk+\dfrac{1}{2}ek^2$$ この式は2次式による近似になっている。 $$\epsilon(h,k)=\frac{f(a+h,b+k)-(A+Bh+Ck+Dh^2+Ehk+Fk^2)}{\kakko{\sqrt{h^2+k^2}}^2}$$ とおく。 $\ds\lim_{(h,k)\to(0,0)}\epsilon(h,k)=0$ が成立するとき,$A+Bh+Ck+Dh^2+Ehk+Fk^2$は$(x,y)=(a,b)$で $f(x,y)=f(a+h,b+k)$を 近似する2次式 と呼ぶ。この例でいうと $e+2eh+ek+eh^2+2ehk+\dfrac{1}{2}ek^2$ は $(x,y)=(1,1)$で$f(x,y)=x^2e^y$ を 近似する2次式である(証明は演習問題 2.31)。
$n$ を大きくしていくと高い次数の式に よる近似になり,一般に近似が良くなるのは1変数の場合と同様である。 $g(h,k)$を$h,k$ に関する $n$ 次式とする。 $$\epsilon(h,k)=\frac{f(a+h,b+k)-g(h,k)}{\kakko{\sqrt{h^2+k^2}}^n}$$ とおく。 $\ds\lim_{(h,k)\to(0,0)}\epsilon(h,k)=0$ が成立するとき,$g(h,k)$ は $(x,y)=(a,b)$ で $f(x,y)$ を近似する$n$次式と呼ぶ。この定義とテーラーの定理との関連については 演習問題 2.31 参照のこと。
1変数の場合と同様に2変数でも級数展開が考えられるがこの講義では取扱わない。 極値問題への応用は次節で扱う。

演習問題 2.30
次の関数を$(x,y)=(a,b)$で近似する1次式,2次式および3次式を求めよ。 ただし演習問題 2.31 の結果は用いてもよい。
  1. $z=f(x,y)=(x-1)(y+2) \hS(a,b)=(0,0)$
  2. $z=f(x,y)=\dfrac{1}{1-2x+3y} \hS(a,b)=(0,0)$
  3. $z=f(x,y)=\sin(x+y) \hS (a,b)=\left(\dfrac{\pi}{2},\dfrac{\pi}{2}\right)$
演習問題 2.31
  1. $f(a,b)+Df(a,b)$ が $(x,y)=(a,b)$ で $f(x,y)$ を近似する1次式であることを示せ。
  2. $f(a,b)+Df(a,b)+\dfrac1{2!}D^2f(a,b)$ が $(x,y)=(a,b)$ で $f(x,y)$を近似する2次式であることを示せ。
  3. $\ds\sum_{j=0}^n\dfrac1{j!}D^jf(a,b)$ が $(x,y)=(a,b)$で$f(x,y)$ を近似する$n$次式であることを示せ。

Last modified: 2026/09/22 22:10