(3) 1変数関数の不定積分と微分方程式
この章では微分方程式と1変数関数の不定積分について学ぶ。
積分は微分方程式を解くために必要な1変数関数の不定積分の計算について
のみ扱う。
定積分は解析学IIで扱うが,定積分と不定積分の違いに関して一言だけふれておく。
高校では不定積分(原始関数)を用いて定積分が定義されていた。
これは便法と考えるべきで,厳密には正しい定義とは言えない。
不定積分は微分の逆として定義されるものであるが,
定積分は求積法と関係して定義されるものであり,
直接には不定積分とは無関係である。
定義としては無関係の両者の関係にニュートン・ライプニッツが独立に
気づいたとき微積分学が成立したといえる。
このことは解析学IIで定積分の定義のときにもう一度ふれるが,
このことをきちんと理解することが積分の理論的把握のキーポイントである。
(3.1)不定積分の定義と諸性質
数学序論で積分の基本的部分は学んでいるので,ここでは簡単に復習した後,
数学序論で述べなかった幾つかの計算法について学ぶ。
関数$F(x)$が微分可能で
$$\dfrac{d}{dx}F(x)=f(x)$$
となるとき,
$F(x)$を$f(x)$の原始関数(primitive function)
または不定積分(indefinite integral)
といい,
$$\int {f(x)}dx=F(x)$$
と表す。$f(x)$を被積分関数と呼ぶ。
原始関数は$f(x)$から一意的に決まるものではないが,
定数の差しかないので,
$$\int {x^2}dx=\frac{1}{3}x^3+C$$
のように表す。この $C$ を積分定数と呼ぶ。
前期の数学序論では混乱する場合を除き通常省略したが,
微分方程式を扱う場合は積分定数を書く必要がある。
微分方程式に入ったら積分定数は書くことにする。
またこの章の以下の部分で関数は積分可能であることを仮定し,
そのことをいちいち断らないこととする。
次の諸命題に関しては前期に学んだ。
命題 3.1 [積分の線型性]
- $\ds\int\kakko{f(x)+g(x)}ds=\int{f(x)}dx+\int{g(x)}dx$
- $\ds\int{af(x)}dx=a\int{f(x)}dx$
命題 3.2 [いくつかの関数の不定積分]
- $\ds\int{x^a}dx=\frac{1}{a+1}x^{a+1}\hS (a\neq-1)$
- $\ds\int{\frac{1}{x}}dx=\log|x|$
- $\ds\int{\cos x}dx=\sin x$
- $\ds\int{\sin x}dx=-\cos x$
- $\ds\int{e^x}dx=e^x$
- $\ds\int{a^x}dx=\frac{a^x}{\log a}$
- $\ds\int{\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}}dx=\arcsin x$
- $\ds\int{\frac{1}{1+x^2}}dx=\arctan x$
定理 3.3 [置換積分法]
$x=\varphi(t)$ とすると,
$$\int{f(x)}dx=\int{f(\phi(t))\varphi'(t)}dt$$
置換積分は色々な場合に色々な形の変数変換が考案されている。
詳しくは 3.3 節で扱う。
定理 3.4 [部分積分法]
$$\ds\int{f'(x)g(x)}dx=f(x)g(x)-\int{f(x)g'(x)}dx$$
(3.2)諸計算I (有理関数の不定積分)
有理関数の積分は我々の知っている関数(初等関数)で書くことができることが知られている。
この事実は理論的にも計算の実行の上でも重要である。
積分の計算方法を一般的に述べるのではなく,
具体例を取り上げて一般的な方法が分かる様に
積分計算を実行することにする。
一般論は後で述べる。
$$I=\int{\frac{x^4+x^3-x-4}{x^3-1}}$$
を例にとる。
[1]「(分子の次数)$\lt$(分母の次数)」に変形
最初に分子の次数が分母の次数より大きければ割り算を実行して
分子の次数を小さくする。
$$x^4+x^3-x-4=(x+1)(x^3-1)-3$$
より
$$\frac{x^4+x^3-x-4}{x^3-1}=\frac{(x+1)(x^3-1)-3}{x^3-1}
=x+1-\frac{3}{x^3-1}$$
と変形でき
\begin{align*}
\int{\frac{x^4+x^3-x-4}{x^3-1}}dx
&=\int\kakko{x+1}dx-\int{\frac{3}{x^3-1}}dx\\
&=\frac12x^2+x-\int{\frac{3}{x^3-1}}
\end{align*}
となるので
$\dfrac{3}{x^3-1}$cの積分を求めればよい。
[2] 部分分数分解
部分分数分解とは
$$\frac2{(x-1)(x+1)}=\frac1{x-1}-\frac1{x+1}$$
のように分母が積の形になっている分数式を和の形に直すものである。
分母が共通因子のない積に書けているときは,
必ず部分分数の形に直せることが知られている
$(*1)$。
分子の次数が分母の次数より小さい場合は,
部分分数の分子の次数も分母の次数より小さく選べることも知られている。
部分分数分解をするために分母を因数分解する
$(*2)$。
$$x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)$$
$x^2+x+1$は 実数の範囲では1次式に因数分解できない
$(*3)$ 。
上に述べたことから
$$\frac{3}{x^3-1}=\frac{a}{x-1}+\frac{bx+c}{x^2+x+1}$$
を満たす定数 $a,b,c$ が存在することが分かる。
よってそのような $a,b,c$
を見つけよう。分母を払うと
\begin{align}\label{align_bubun_bunsuu}
3&=a(x^2+x+1)+(bx+c)(x-1)
\end{align}
が恒等的に成立している。
$a,b,c$ を見つける方法としてここでは
係数比較法と代入法を紹介する。
係数比較法は式を展開して降冪(勿論昇冪でもよい)に整理し係数を比較する方法である。
(\ref{align_bubun_bunsuu})式を展開すると
$$3=(a+b)x^2+(a-b+c)x+a-c$$
となる。
係数を比較すると2次の係数は $0$,1次の係数も $0$,
0次の係数(定数項)は $3$ なので
$$a+b=0,\quad a-b+c=0,\quad a-c=3$$
である。
これを解くと
$a=1,b=-1,c=-2$が得られる (連立1次方程式を解く過程は省略)。
この方法では連立方程式を解くのに手間がかかる場合も多い。
代入法は(\ref{align_bubun_bunsuu})の $x$ に適当な値を代入する方法である。
代入する値はなんでもよいが,計算しやすい値がよい。
$x=1$ のとき第2項は $0$ になるので計算が容易である。
$x=1$ を代入すると
$$3=a(1^2+1+1)+(b\cdot1+c)(1-1)$$
となるので,$a=1$ が得られる。
$a=1$ なので
(\ref{align_bubun_bunsuu})式は
\begin{align*}
3&=x^2+x+1+(bx+c)(x-1)
\end{align*}
となるが移項して
\begin{align*}
-x^2-x+2=(bx+c)(x-1)\\
(-x-2)(x-1)=(bx+c)(x-1)
\end{align*}
となる。
$x-1$で両辺を割ると
\begin{align*}
-x-2=bx+c
\end{align*}
が恒等的に成立するので $b=-1,c=-2$ となる。
今の場合 $x=1$ しか代入しなかったが,
必要に応じて2つ以上の値を代入する場合 もあるし,
2乗がある場合は式を微分して代入する方法もある(演習問題を解く ときに必要になる)。
いずれかの方法により
$$\int{\frac{3}{x^3-1}}=
\int{\frac{1}{x-1}}-\int{\frac{x+2}{x^2+x+1}}$$
が得られる。
[3]積分の実行
$\ds\int{\frac1{\text{1次式}}}dx$ の積分は容易である。
よって $\ds\int{\frac{\text{1次式}}{\text{2次式}}}dx$
の積分ができればよい。
ただし [2次式] は実数の範囲で因数分解できない式であることに注意すること。
実数の範囲で因数分解できるものは更に部分分数分解可能である。
実数の範囲で因数分解できない2次式に対し,
$$x^2+x+1 \mapto t^2+a$$
と2次式を1次の項がない形に変形する。
$x^2+x+1=\ds\left(x+\frac{1}{2}\right)^2+\frac{3}{4}$ となるので
$t=x+\dfrac{1}{2}$ と変数変換すると
$\dfrac{dt}{dx}=1$ なので
\begin{align*}
\int{\frac{x+2}{x^2+x+1}}dx
&=\ds\int{\frac{\kakko{t-\dfrac12}+2}{t^2+\dfrac34}{\dfrac{dt}{dx}}}dx\\
&=\int{\dfrac{t}{t^2+\dfrac34}}dt
+\dfrac32\int{\dfrac1{t^2+\dfrac34}}dt
\end{align*}
となる。
前者は $u=t^2+\dfrac34$ とおくと
$\dfrac{du}{dt}=2t$ なので
\begin{align*}
\int{\dfrac{t}{t^2+\dfrac34}}dt&
=\int{\dfrac{t}{u}\dfrac{dt}{du}}du=\int{\frac{t}{u}\frac1{2t}}du\\
&=\dfrac12\int{\frac1u}du
=\dfrac12\log|u|\\
&=\frac12\log\kakko{t^2+\frac34}
=\frac12\log(x^2+x+1)
\end{align*}
後者は
$$\int{\frac1{1+x^2}}=\arctan x$$ に帰着させる。
$t^2+\dfrac34=t^2+\kakko{\dfrac{\sqrt3}2}^2$
なので $t=\dfrac{\sqrt3}{2}u$ とおくと
$\dfrac{dt}{du}=\dfrac{\sqrt3}2$ なので
\begin{align*}
\int{\frac1{t^2+\frac34}}dt
&=\int{\dfrac1{\dfrac34u^2+\dfrac34}\dfrac{dt}{du}}du
=\int{\dfrac1{\dfrac34u^2+\dfrac34}\dfrac{\sqrt3}2}du\\
&=\frac43\frac{\sqrt3}2\int{\frac1{u^2+1}}du
=\frac2{\sqrt3}\arctan u\\
&=\frac2{\sqrt3}\arctan\kakko{\frac2{\sqrt3}t}
=\frac2{\sqrt3}\arctan\frac2{\sqrt3}\kakko{x+\frac12}\\
&=\frac2{\sqrt3}\arctan\frac{2x+1}{\sqrt3}
\end{align*}
以上を合わせると
$$I=\frac{x^2}{2}+x-\log|x-1|
+\frac{1}{2}\log(x^2+x+1)+\sqrt3\arctan\frac{2x+1}{\sqrt3}$$
[4] 少し理論的に
任意の有理関数の不定積分が初等関数で表されるかどうかを考える。
一般の有理関数を $R(x)=\dfrac{f(x)}{g(x)}$ とする。
[1] の操作で分子の次数は分母の次数より小さいと仮定してよい。
次に部分分数分解をするため $g(x)$ の因数分解を実行する。
アルゴリズムは存在しないが,
実数の範囲で1次式または2次式に因数分解されることが知られている(代数学の基本定理)。
$g(x)=g_1(x)g_2(x)$ と分解されて,
$g_1(x)$ と $g_2(x)$ が共通因子を持たない場合
$$\dfrac{f(x)}{g(x)}=\dfrac{f_1(x)}{g_1(x)}+\dfrac{f_2(x)}{g_2(x)}$$
と部分分数分解できる。
このときそれぞれの分子の次数はそれぞれの分母の次数より小さいものを選べる。
同じ因数が2個以上存在する場合もあるので,
部分分数分解を実行すると,次の形の関数の何個かの和になっている。
$$\dfrac{f_1(x)}{(x+a)^n},\hS \dfrac{f_2(x)}{(x^2+ax+b)^n}$$
前者の積分を実行する。分子 $f_1(x)$ を $(x+a)$ で展開する。
即ち $f_1(x)$ を $x+a$ で割り,割り切れなければその商を
$x+a$ で割る。このことを続けていくといつかは商が $0$ になるのでこの操作
を終える。
このとき次の様に表されている。
\begin{align*}
f_1(x)&=\sum_{k=0}^{n-1}a_k(x+a)^k\\
&=a_0+a_1(x+a)+\cdots+a_{n-1}(x+a)^{n-1}
\end{align*}
これを用いると
\begin{align}\label{BubunBunsuuBunkaiT}
\frac{f_1(x)}{(x+a)^n}&=\frac{a_0}{(x+a)^n}+\cdots+\frac{a_{n-1}}{x+a}
\end{align}
と和に分解できる。
(\ref{BubunBunsuuBunkaiT}) を部分分数分解と呼ぶ流儀もあるが,
混乱の原因になることもあるので,
この講義では採用しないことにする。
後者の積分を実行する。
分母が $(x^2+ax+b)^n$ の場合は
変数変換することにより,$(x^2+a^2)^n$ と仮定する。
分子 $f_2(x)$ を $(x^2+a^2)$ で展開する。
即ち $f_2(x)$ を $x^2+a^2$ で割り,割り切れなければその商を
$x^2+a^2$ で割る。
このことを続けていくといつかは商が $0$ になるのでこの操作
を終える。
このとき次の様に表されている。
\begin{align*}
f_2(x)&=\sum_{k=0}^{n-1}(b_kx+c_k)(x^2+a^2)^k\\
&=(b_0x+c_0)+(b_1x+c_1)(x^2+a^2)+\cdots+(b_{n-1}x+c_{n-1})(x^2+a^2)^{n-1}
\end{align*}
これを用いると
\begin{align*}
\frac{f_2(x)}{(x^2+a^2)^n}&=\frac{b_0x+c_0}{(x^2+a^2)^n}+\cdots
+\frac{b_{n-1}x+c_{n-1}}{x^2+a^2}
\end{align*}
と和に分解できる。
以上により次の3つの積分ができればよいことが分かる。
$$\int\frac{1}{(x+a)^n}dx,\hS
\int\frac{x}{(x^2+a^2)^n}dx,\hS
\int\frac{1}{(x^2+a^2)^n}dx$$
1番目の積分は $u=x+a$ とおくと,
$\dfrac{du}{dx}=1$ より
\begin{align*}
\int{\frac1{(x+a)^n}}dx&=
\int{\frac1{u^n}}du
\end{align*}
となるので,$n=1$ のときは $\log |u|=\log|x+a|$,
$n\neq1$ のときは $\dfrac1{(1-n)u^{n-1}}=\dfrac1{(1-n)(x+a)^{n-1}}$
となる。
2番目の積分は $u=x^2+a^2$ とおくと,
$\dfrac{du}{dx}=2x$ より
\begin{align*}
\int{\dfrac x{(x^2+a^2)^n}}dx&=
\int{\dfrac x{u^n}\dfrac1{2x}}du
=\dfrac12\int{\frac1{u^n}}du
\end{align*}
となるので,
$n=1$ のときは
$\dfrac12\log u=\dfrac12\log(x^2+a^2)$,
$n\neq1$ のときは
$\dfrac1{2(1-n)u^{n-1}}=\dfrac1{2(1-n)(x^2+a^2)^{n-1}}$
となる。
3番目の積分は $n=1$ のときは
$x=at$ とおくと,
$\dfrac{dx}{dt}=a$ なので
\begin{align*}
\int{\frac1{x^2+a^2}}
&=\int{\frac1{a^2t^2+a^2}a}dt
=\frac1a\int{\frac1{t^2+1}}dt
\end{align*}
に帰着できる。
$\int{\dfrac1{t^2+1}}dt=\arctan t$ より
$$\int{\frac1{x^2+a^2}}=\dfrac1a\arctan t
=\dfrac1a\arctan\dfrac xa$$
となる。
$n\geqq2$ のときは
次の漸化式により
計算することができる。
$\ds J_n=\int\frac{1}{(x^2+a^2)^n}dx$とおくと,漸化式
$$\ds J_{n+1}=\frac{1}{2na^2}\left\{\frac{x}{(x^2+a^2)^n}
+(2n-1)J_n\right\}$$
が成立するので(演習問題 3.1 参照),
この式により順次計算することができる。
演習問題 3.1
演習問題 3.1
下記のヒントを参考にして上の漸化式を証明せよ。
ヒント: $\dfrac1{(x^2+a^2)^n}=\dfrac{x^2+a^2}{(x^2+a^2)^{n+1}}$
を積分すると
$$J_n=\int{\frac{x^2}{(x^2+a^2)^{n+1}}}+a^2J_{n+1}$$
が得られるので,部分積分すると…。
演習問題 3.2
次の関数の不定積分を求めよ。
- $\dfrac{1}{x(x-1)}$
- $\dfrac{2x}{(x+1)(x-1)}$
- $\dfrac{x^2+1}{x(x-1)^2}$
- $\dfrac{x^3}{(x+1)^2}$
- $\dfrac{1}{x(x^4-1)}$
- $\dfrac{1}{(x^2+1)^2}$
- $\dfrac{x-1}{x^2+2x+2}$
- $\dfrac{1}{x^3+1}$
- $\dfrac{1}{x^4+1}$
- $\dfrac{3x^3+x^2+3}{(x-1)^2(x^2+2x+4)}$
- $\dfrac{2(x^3+4x^2+7x+6)}{(x+1)^2(x^2+2x+5)}$
- $\dfrac{x^3+4x^2+8x+16}{(x^2+4)(x+2)^2}$
- $\dfrac{2x^4+8x^3+20x^2+25x+19}{(x^2+2x+3)^2(x+1)}$
- $\dfrac{x^4+2x^3+6x^2+9x+7}{(x^2+4)^2(x-1)}$
$(*1)$ 次の定理は代数学の基本定理として知られている
定理: 実数係数の $n$ 方程式は,複素数の中に必ず $n$ 個解を持つ。
これより実数係数の多項式は必ず1次式に因数分解できる,ことがわかる。
ただし,解を求める具体的方法がない場合もある。
$(*2)$ 因数分解の公式を忘れた場合には
因数定理
[多項式 $f(x)$ に対し $f(a)=0\narababa\text{$f(x)$は $x-a$ で割り切れる}$]
が役に立つ。
$(*3)$ 複素関数の積分も認めれば,$\omega$ を$1$の3乗根とすると,
$x^2+x+1=(x-\omega)(x-\omega^2)$ と因数分解できて,
計算が少し簡単になるが,この講義では複素関数の積分は扱わない。
Last modified: 2026/09/23 16:56